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仙台地方裁判所 昭和48年(行ウ)1号 判決

原告 東河産業株式会社

被告 建設大臣 ほか一名

訴訟代理人 宮北登 伊藤俊平 橘内剛造 ほか八名

主文

一  原告の被告建設大臣に対する請求及び被告東北地方建設局長に対する請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用はすべて原告の負担とする。

事  実 〈省略〉

理由

一  原告が昭和四四年一一月五日付宮城県指令第六、七八四号をもつて漁港法三九条一項に基づく名取川河口を含む閑上漁港区域内における砂採取権を取得したこと、原告が同四六年二月五日被告東北地建局長〔編注:東北地方建設局長のこと。〕に対し河川法二五条による名取川河口における土石等の採取の許可及び砂利採取法一六条による採取計画の認可をそれぞれ申請したが、同月一五日、建東水第五五号をもつて不許可及び不認可の各処分〔編注:以下それぞれ本件不許可処分、本件不認可処分という。〕を受け、これを不服として、同年四月一四日被告建設大臣に対し、行政不服審査法に従い審査請求をなしたが、同四七年四月一五日、四六建設省東地河政発第五号をもつて棄却の裁決(本件裁決)を受けたことはいずれも当事者間に争いがない。

二  ところで原告は被告建設大臣のなした右裁決並に被告東北地建局長のなした右不許可処分及び不認可処分を違法としてその取消を求めるので以下この点について判断する。

(一)  被告建設大臣のなした本件裁決の取消を求める請求について、

行政事件訴訟法は、行政庁の処分その他公権力の行使に当る行為の取消を求める「処分の取消しの訴え」と審査請求、異議申立てその他の不服申立てに対する行政庁の裁決、決定その他の行為の取消しを求める「裁決の取消しの訴え」との二種の取消訴訟を認め(同法三条二項三項)、前者のいわゆる原処分の取消を求める訴訟と後者のいわゆる裁決の取消を求める訴訟との関係について、特別法において原処分については出訴を許さず裁決に対してのみ出訴を許する旨規定している場合は格別、かかる特別の規定がない限り、原処分に対しても裁決に対しても取消訴訟を認めると共に、原処分に対する取消訴訟とその処分についての審査請求を棄却した裁決に対する取消訴訟とが提起できる場合には、裁決の取消を求める訴訟においては原処分の違法を理由として裁決の取消を求めることは許されないこととしている(同法一〇条二項)のであるから、右裁決の取消を求める訴訟においては裁決固有の違法事由のみを主張してその取消を求めうるものというべきである。

本件において、原告は河川法二五条による許可申請及び砂利採取法一六条による採取計画認可の申請に対する被告東北地建局長のなした不許可及び不認可の各処分の取消を求めると共にこれに対する審査請求を棄却した被告建設大臣の裁決の取消を求めるものであるが、被告東北地建局長のなした右不許可及び不認可の各処分に対して出訴を認めずその裁決に対してのみ出訴を許す旨の特別の規定は存せず、したがつて、被告東北地建局長のなした右の各処分に対しても被告建設大臣のなした右裁決に対しても取消訴訟の提起が許されるものであるから、被告建設大臣のなした本件裁決の取消を求めるに当つては裁決固有の違法事由のみを主張してその取消を求めうるものといわなければならない。

しかして裁決固有の違法事由とは、裁決の主体即ち裁決庁に関する違法事由、裁決の手続に関する違法事由及び裁決の形式に関する違法事由をいうものであつて、たとえ原処分を是認した裁決の理由に原処分の理由と異るところがあつても、原処分と同一理由でこれを是認した場合と原処分を正当とした点においては異るところがないのであるから、右裁決の理由の判断に誤りがあるとの主張は、結局において原処分と同一理由でこれを是認した場合もこれと異る理由で是認した場合も、裁決で是認した原処分の違法を主張するに帰するものというべく、したがつて右の主張は裁決の取消を求める固有の違法事由とはならないものと解すべきである。

本件において、被告建設大臣のなした本件裁決の取消を求める理由として原告の主張するところは、結局において原処分の違法を理由とするものであつて、前述のいわゆる裁決固有の違法事由を理由とするものでないことはその主張自体に照し明らかであるから、原告の本件裁決の取消を求める請求は既に右の点においてその理由がなく棄却を免れないものといわなければならない。

(二)  被告東北地建局長のなした本件不許可処分及び不認可処分の取消を求める請求について、

1  次に本件不許可処分及び不認可処分の取消し請求について検討するに、〈証拠省略〉によれば、被告東北地建局長は先ず河川法二五条に基づく土石等の採取の許可申請に対し不許可処分をなし、右不許可を理由として砂利採取法一六条に基づく採取計画の認可申請に対し不認可の処分をなしたものであることが認められるので、以下において先ず本件不許可処分が違法か否かについて判断する。

(1) ところで原告は先ず本件不許可処分の理由は「貴社が現在会社経営上重要な影響をもつ民事訴訟が係属中であり、また過去において砂利不法採取の実績がある等、河川管理上適正を期し難いので不許可とする。」というのであつて、それ以外は本件不許可処分の理由となつていなかつたものであるから、被告東北地建局長が主張するような右理由以外の理由は本件不許可処分の理由として主張し得ないものである旨主張する。

なるほど〈証拠省略〉によると、被告東北地建局長のなした本件不許可処分の書面には不許可処分の理由として原告主張の理由が記載されているものであるが、本件において被告東北地建局長が主張するところは、河川管理上適正を期し難いとする理由を更に詳細具体的に主張したにすぎないものであり、取消訴訟においてかかる主張が許されないとする理由はないから、原告の右主張は採用できない。

(2) よつて、本件不許可処分がなされるに至つた経緯、理由等についてみるに、〈証拠省略〉を総合すれば、

(イ) 原告は、閑上、気仙沼等の漁港区域内における砂採取等を目的として昭和四四年二月六日設立された株式会社であり、同年一一月五日宮城県指令第六、七八四号及び同四五年六月一七日宮城県指令第二、〇五八号をもつて、それぞれ宮城県知事から漁港法三九条一項に基づき閑上漁港区域における泊地浚渫の許可を受けたものであるが、その際最初に採算の悪い広浦の砂(以下特に区別を必要とする以外は砂利と砂とを区別せず砂利という。)を採取したならば、その後は採算の合う漁港内名取川部分の砂利採取を許可するとのことであつたので当面広浦の砂利採取を目的とすることとし、昭和四四年一二月九日付をもつて被告東北地建局長に対し、右広浦での砂利採取に従事する砂利運搬船の航行に支障のある広浦内の名取川河口航路部分の土石を浚渫し沖合の海中に投棄したい旨河川法二七条による掘削許可申請をなしたこと、

(ロ) 一方、当時の河川砂利採取許可行政についてみると、年々増大する河川砂利需要に対処しつつ河川の保全管理と総合的利用を十分なものとするため既に昭和四一年五月一〇日に河川砂利対策要綱(同日建河発第一七〇号河川局長通達)が建設省において策定され、右要綱において河川砂利の逼迫に伴う乱掘等による河川の荒廃を防止し、河川砂利の安定供給を図るため河川管理の強化、未利用砂利資源の開発、河川砂利の用途規制、砕石への転換促進、砂利採取業者の自主規制、協業化促進等の具体的措置を措ることが規定され、更に河川管理強化の一環として、砂利採取許可準則並びに各河川毎の砂利採取基本計画が策定され、名取川についても昭和四一年及び同四六年にそれぞれ五年計画をもつて右基本計画及び規制計画が策定されたこと、

昭和四一年策定の基本計画、規制計画においてはその当時河川砂利の採取が主になされていた名取川上、中流部(以下特に断わらない限り名取川を指す。)について、年次計画により年間採取量を設定していたが、その後上、中流部の砂利資源の枯渇により採取業者が下流部(閑上水門付近から上流三・六キロメートルの区間をいう。以下において同じ。)に移動するに伴い、昭和四六年に右基本計画、規制計画も改訂されるところとなり、右改訂された計画においては、下流部の砂利採取可能量を五五万立方米と見積り、これを昭和四六年以降毎年八万立米ずつ採取することとし、その範囲内で採取を許可することとしていたこと、

一方、名取川における砂利採取業者については当初六社ほどが被告東北地建局長の委任により工事事務所長の専決しうる一申請五、〇〇〇立米以内、期間六ヶ月未満の範囲で申請して砂利の採取を行つてきたものであるが、砂利資源の枯渇に伴い、自主規制の方途として昭和四六年以降宮城県砂利工業組合を結成して一本化し、もつて下流部の砂利採取にあたり、所管官庁の被告東北地建局長も、枯渇化する砂利資源を長期にわたり適正な計画的採取のもとに利用してゆくためには前記年間八万立米の砂利採取許容量が、右既存業者において自主規制しつつ事業を継続しうる最少許容量として設定されたものであつて、全体の採取可能量あるいは年間の採取量よりするも新規業者による砂利採取を認める余地がなかつたことから、名取川における新規業者の砂利採取は原則として認めない方針をとり、なお河口部については、当面砂利の採取が後記原告の申請があるまでは問題化していなかつたこともあつて、前記基本計画等でも規制の対象としなかつたが、既存業者が下流部において採取を完了した暁には河口部においても砂利の採取を行うものとの含みでいたこと、

(ハ) また広浦に流入する名取川は閑上大橋から下流が漁港法により宮城県知事の管理する漁港区と重複しているところ、右のうち閑上大橋から同橋の約九〇〇メートル下流にある閑上水門、貞山堀付近までが下流部に該当し、その下流約九〇〇メートルは河口部にあたるものであるか、閑上大橋の下流部において名取川左岸(上流から見て左側、以下同じ。)からの陸地ないし砂の埋積部分が右岸に次第にせり出し、右大橋付近では幅員約三〇〇メートルある流水部分も河口部先端の約四〇〇メートルは幅員約一〇〇メートルと狭くなり、名取川の水は右岸近くに設けられた導流堤に添つて流れていること、

(ニ) ところで、原告は訴外千葉三郎が宮城県との折衝の末前記のとおり漁港区域内の砂利採取等を目的として設立した株式会社であり、資金面においては現在原告会社の代表取締役に就任している荒木茂義に依存していたものであるが、同人の代表取締役就任につき同人と千葉三郎との間に対立が生じ、昭和四五年六月一九日付仙台地方裁判所の決定により原告会社代表取締役職務代行者として弁護士佐藤裕が選任される等、原告会社の経営をめぐる重大な内紛に発展していたところ、前記のとおり宮城県知事から閑上漁港内における砂利採取の許可を受けたものの、原告は当時何らの事業も行つておらず、また砂利採取の事業経験もなかつたことから、原告は同年七月一〇日川崎建設株式会社(以下川崎建設という。)との間に閑上漁港区域砂利採取工事に関する契約を締結し、砂利採取の実務は全て川崎建設に任せることとし、川崎建設は右契約に従い横浜から砂利採取用のバケツト船を曳航し、前記許可申請に対する被告東北地建局長の許可を待つて閑上港に待機させていたが、同社の開発課長であつた梶原要治は待機中の昭和四五年八月一九日被告東北地建局長の許可を受けることなく右バケツト船を使用して名取川河口部分の土砂(ヘドロ層の部分)を試掘し、これを発見した河川監視員加藤幸男の連絡を受けた東北地方建設局仙台工事事務所名取川出張所長から警告を受けたこと、また同月二四日には訴外長浜俊之所有の第一二鷹取丸が名取川河口に回航し、右バケツト船同様許可なくして砂利を採取し、これを発見した前記監視員から報告を受けた名取出張所長らは右砂利採取が原告の指示によるものであると判断し、同月二五日原告の事務所において干葉三郎らに対し口頭警告を行つたところ、干葉らは前者について、そのような事実があるとすれば遺憾である旨述べたこと、

(ホ) 一方原告の河川法二七条に基づく掘削許可申請につき検討していた東北地建当局は、右申請にかかる名取川河口部分の砂利も砂利資源枯渇の折から利用可能な砂利資源であり、これを原告申請のように単に海中に投棄するのは得策でないと判断し、原告の申請目的は航路の浚渫にあるからその掘削については既存砂利採取業者への影響を考慮し、その意見を徴したうえ原告との間に調整作業を進めていたものであるが、その際、原告の右申請の目的が航路の浚渫ではなく名取川河口部からの砂利採取それ自体であることが判明したため、申請内容につき虚偽があるとして原告の右申請を返戻したところ、翌昭和四六年二月五日になり原告が本件許可申請をなしたこと、

しかしながら原告のなした本件許可申請は、その年間砂利採取量が二二万四〇三八立米と他の既存業者の採取量と比較してもきわめて多量であるのみならず、砂利採取基本計画のもとに当時設定されていた名取川下流部の年間採取量八万立米あるいは当時砂利採取が問題化せず年間採取量の設定はなされていなかつたが砂利資源枯渇の折から将来において当然砂利採取の対象となる名取川河口部の予想採取可能量に照らしても莫大な採取量であり、枯渇化する砂利資源を用途規制等を行いながら少しでも長期に安定した供給を図ろうとしていた当時の河川砂利行政に逆行するものであるうえ、河川砂利資源の枯渇化に応じて砕石への転換を強力に促進する一方で既存業者の整理統合を行い年間の砂利採取量を極力抑制しようとしていた当時の状況にあつては、近い将来において既存業者が砂利採取を行うことが当然予想される名取川河口部において、新しい砂利採取業者による砂利採取を認める余地は全く存在しなかつたので、原告の本件許可申請を受理した被告東北地建局長は内規である砂利採取許可準則に定める欠格事由である「一、砂利等の採取に関する事業を遂行するために必要な能力及び信用を有しない者、二、採取の許可の申請前二年以内に砂利等の採取に関し、不正又は著しく不当な行為をした者」に前記原告会社の内紛並びにバケツト船による土砂の不許可採取及び第一二鷹取丸回航の件(被告東北地建局長はこれについても原告による砂利不法採取と判断した。)が該当するとして原告の本件許可申請を不許可としたこと、

等が認められるところ、原告による砂利不法採取については、右認定のとおり原告との砂利採取工事の契約に基づいて閑上港に曳航されていた川端建設のバケツト船が待機中許可を受けずに名取川河口の土砂を試掘したこと及び第一二鷹取丸が右同様許可なくして名取川河口の砂利を採取したことは認めることができるが、右バケツト船の試掘につきそれが原告の指示によるものであること及び第一二鷹取丸が原告の傭船であり、同船による右採収が原告の指示によるものであることについては〈証拠省略〉によつても未だこれを認めることができず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

(3) ところで河川法は、治水、利水を全うするようこれを総合的に管理することにより公共の安全を保持し、公共の福祉を増進することを目的とし(同法一条)そのため河川は公共用物とされ、河川の管理は右目的が達成されるよう適正に行なわれなければならないと定め(同法二条)、その二五条において、河川区域内の土地において土石(砂を含む)を採取しようとする者は、建設省令で定めるところにより、河川管理者の許可を受けなければならないとしているのであるが、同法が右許可の具体的な要件を何ら定めていないこと、右許可が公共用物とされる河川について申請者に利益を与える処分であることおよび右河川管理ひいては許可行政の技術的性格等からすると、右河川管理者の許可は、管理者が前記同法一条の目的に適合するよう許否を決定すべき裁量権を認めた裁量行為であると解するのが相当である。

而して、前認定のように被告東北地建局長の本件不許可処分の理由のうち原告が砂利の不法採取を行つたとの点については未だこれを認め難く、同被告の調査確認の面においてやや適正を欠いた点が認められるけれども、名取川における砂利の掘削可能量の逼迫等の理由からその下流部および河口部における新規業者による砂利採取を認めることが困難な事情にあつたところ、原告の採取予定量が既存の業者に比べて莫大であつたこと、原告の会社内部に重大な内紛が生じていたこと、原告自身砂利採取の事業実績がなく砂利採取はすべて川崎建設に任せることにしていたこと、右川崎建設のバケツト船が砂利の不法採取を行つたこと等の事情が存し、これらをも事由として、被告東北地建局長が原告に前記砂利採取許可準則に定める欠格事由があるものと認めて本件不許可処分をなした以上、原告の砂利不法採取の事実の誤認の故をもつて、右不許可処分に前記裁量の範囲を逸脱した違法があるとは到底認め難い。

(4) 原告は、被告東北地建局長が原告の許可申請に対し何ら主張ないし証拠提出の機会を与えることなく、しかも何らの調査も行うことなく申請受理後僅か一〇日のうちに本件不許可処分をなしたのは、何らの合理的理由なく原告の職業選択の自由を侵害したものと言うべく、日本国憲法二二条及び最高裁判所昭和四六年一〇月二八日判決(昭和四〇年(行ツ)第一〇一号、民集二五巻七号一〇三七頁)の趣旨にも反すると主張する。

しかしながら、河川のわが国民生活に及ぼす影響の重大さに鑑みると、河川につき洪水等の災害を防止すると共に、その適正な管理を図り、流水の正常な機能が維持されるようにこれを総合的に管理することは国家のきわめて重要な施策とも言うべく、河川の状態に直ちに重大な影響のある河川砂利の採取が右河川管理の見地から制約を受けることは、けだし真にやむを得ないところであつて、その結果として国民の職業選択の自由が制約されるとしても、それは公共の福祉による制限としてわが憲法上も是認されているものと解されるところ本件の場合も、河川法により河川砂利の採取が被告東北地建局長の許可にかからしめられ、前記認定のとおり、原告から河川砂利採取の許可申請(本件許可申請)を受けた被告東北地建局長が原告に主張・立証の機会こそ与えなかつたものの内規である砂利等採取許可準則に則り審査した結果、名取川の砂利資源が枯渇しており原告による新規の砂利採取を認める余地がないこと、原告には会社経営をめぐる内紛が存する等河川管理上適正を期し難いことを理由として原告の右許可申請を不許可としたというものであるから、右は正しく公共の福祉による職業選択の自由の制約と言うべく、日本国尠@二二条に豪も違反するものではないと認められるし、右許否の審査において、原告の聴聞等を行なわなかつた点についても本件の場合は、そもそも河川砂利採取の許否の審査につき、申請人に聴聞等、その主張・立証を認める規定が河川法その他の関係法令に存在しないのであるから、右聴聞等を行なわなかつたことをもつて違法であるとも言い難く、また原告の判例違反の主張も、原告挙示の判例は本件と事案を異にして適切ではなく、右原告の主張は採用し難い。

(5) また原告は本件不許可処分は権利ないし権限の濫用であるとも主張するが、本件のように河川法による河川区域と漁港法による漁港区域とが重複し、それぞれの管理者において当該区域の砂利採取許可権を有する場合、それぞれその管理者はその管理目的に従いそれぞれ砂利採取の許否を決定すれば足りるものであり、前記宮城県知事による砂利採取の許可と被告東北地建局長の本件不許可処分とが結論において異なるとしても前記のとおり右不許可処分が河川法上の管理目的に照らして行われたものである以上、右不許可処分には何らの瑕疵もなく、宮城県知事から許可を受けたことを理由に本件不許可処分が権利ないし権限の濫用によるものであるとする原告の主張は失当であるし、名取川河口部の砂利採取が名取川の溢水を防ぐという国家施策に副うものであるにもかかわらず、これを不許可としたことは権利ないし権限の濫用であるとの原告の主張も、原告の主張する名取川の溢水並びにこれに伴い発生する貞山堀の逆流、付近一帯の冠水が単に名取川河口の狭少さのみに起因し、河口部の浚渫により直ちに解決する性質のものとは本件全証拠によるもこれを認めることができないうえ、一般的にみても河口部の砂利採取が河床の低下あるいは橋梁、導流堤等の基礎の洗掘を招来し、ひいては重大な災害発生の危機を生ぜしめるに至ることは容易に看取されるところであつて、右河口部の浚渫を行うにあたつては右の視点に立脚した河川管理者の慎重な判断に従い、総合的計画管理のもとに施行されるべきものであるから、単純に河口部浚渫をもつて名取川の溢水を防ぐ国家施策に副うとの前堤のもとに権利ないし権限の濫用を言う原告の主張はこれを採るを得ないし、仮に原告の主張するとおり名取川河口の浚渫が国家施策に副い、必要なものであるとしても、何人をしてこれを行わしめるかは河川管理の観点から別個に決定すべき事柄であるところ、原告に対する本件不許可処分は、前記のとおり原告による新規の砂利採取を認めるに足りる砂利資源が残存せず、かつ原告に内紛等許可を不相当とする事情が存するとして河川管理上の観点からなされたものであるから、右不許可処分をもつて被告東北地建局長が権利ないし権限を濫川したものと看做す何らの事情も存在しないことは明らかであり、原告の右主張も失当である。

(6) してみれば、被告東北地建局長の本件不許可処分には何らの違法はなく原告の主張はいずれも理由がないから、本件不許可処分の取消を求める原告の請求は棄却を免れない。

2  してみれば、本件砂利採取の許可申請が不許可となつた以上、砂利採取法一六条に基づく採取計画の認可申請もこれも認可するに由ないものであるから、本件不許可処分を理由として為された本件不認可処分も適法であると言わざるを得ず、本件不認可処分の取消を求める原告の請求も失当といわなければならない。

三  よつて、原告の被告らに対する本訴請求は、いずれも失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 伊藤和男 後藤一男 宮岡章)

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